【まとめ】ギャルゲーっぽい展開をリアルでやってみないか?

◆DE/q6iMPro

主人公志望とか言ってた大学生だが、ちょっと長い話でもしようか


ある女の子がいた。その子は地味で目立たなく、悪く言えば存在感の無い子だった。
けど、よく見たらきれいな顔立ちはしてるし、品のいい子だったのでうまくやれば人気出るかもな、とか思ってた。
結局その年は彼女とほとんど会話することなく終わった。それが高1のときの話。

高2の終わりごろ。俺はすでにその子のことを忘れかけていた。
だが、教室の中から廊下をボーっと見ていたら・・・ある日、心臓が跳ね上がるほど綺麗な子が歩いていた。

紛れもなく、その子だった。
髪型は何も変わってない。前髪も後ろに纏めて額を出した、清純そうなポニーテール。
服装も大して変わってない。流行っぽい服じゃなく、あくまで落ち着いた感じの。うちの学校は制服なかったんだよね。
そして元から気品のあった顔立ちはいつの間にか「美しい」って言葉が似合うような、そんなお嬢様になっていたんだ。
俺は、驚いた。
・・・そして、3年になるクラス替えの日。

俺はクラス名簿の中に自分の名前を探した。・・・今年は2組か。
そして当然のようにクラスメイトをチェックする。高校最後の一年間、俺は誰と過ごすんだろう。

・・・彼女の名前があった。
仲良く話したわけでもない、特に親しかったわけでもない。でもなぜか、心臓が無駄にハイテンションだった。

4月は何事もなく終わるかな、とか思っていた。
ある日、俺は予備校の近くの自販機でコーヒーを飲んでいた。最近ようやく飲めるようになったんだ。

「○○くん?」
突然、後ろから俺の名前を呼ぶ女の子の声が聞えた。誰だ。
・・・その子だった。名前なんて書こうかな。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
「○○くんもここ来てたんだね♪」
俺は驚きと嬉しさで耳を真っ赤にして音速でコーヒーを飲みほした。

ちなみに俺と彼女はもう一つの塾が一緒だった。小さな塾で、クラスは20人ちょっと。
それでも席が離れてたから、その日まで会話はしたことなかった。

俺は彼女と話しながら予備校へ向かった。なんか声をかけてくれたのが嬉しすぎて何喋ったか覚えてない。
たぶん何の科目を取ってるか、とかそんな他愛もない話だったと思う。
俺が覚えてるのは入り口のドアを引いてあげて彼女を先に通してあげたくらいか。
彼女は「あ・・・どうもありがとう」と、少し頭を下げて、目が眩むような上品な微笑みをしてくれた。
死んでもいいと思った。

5月に学校の席替えがあった。

俺は廊下側の一番前の席だ。俺は目が悪い(メガネかけてるけど)し、一番前の席が好きだったので
席替えのとき「前のほうの列に行きたい人専用」のクジを毎回引いてた。こんなの引いてるの俺だけじゃないのか。意味あるのか。俺は嬉しいが。

回りを見ると、左後ろに彼女が行儀良く座っていた。この日から、俺の中で人生最高の日々が始まった。少なくとも、その時は。

その日から、彼女は毎日俺に話しかけてくるようになった。

授業中にこっそり後ろから質問してくれたこともあった。休み時間に他愛もない話もした。
今日は何も話さないで終わりかな、そんな風に思って席を立った放課後。突然後ろから
「あ、えっと、○○くん」
引きとめられた。何の話だろう。
「えっと・・・あ、今日塾あるよね」
「うん、そうだね」
「うん、・・・」(顔が微妙に赤い。恥ずかしそうに俯いている)
「うん、・・じゃ、また塾で」
「あ・・・はーい♪また、あとでね」
そう言って、また彼女はあのはにかんだような微笑を返してくれた。
周りの男子ども、見てるかこの野郎。俺は今まで全くモテなかったが、こんな素敵な女の子が毎日俺だけに微笑みかけてくれるんだ。


うちの学校は7月に文化祭がある。さらに奇妙なことに、全学年全クラスが演劇をやり、順位を競うのだ。
校内公演で4クラス×3学年中、上位3クラスが選ばれ、最終日の一般公開日に再演する。
この3という数字は絶妙で、基本的に3年生が勝ち残るんだけど1クラスだけはどうやっても入れない。
その1クラスにはなりたくない。だから、3年生は死ぬほど頑張って練習・準備をする。

演劇の題目は主に映画(たまにオリジナル)だ。とは言っても1クラス25分(入退場含め)しかないため、相当削らなければならない。
どこをどう削り、残すか。台本作りもまた、腕の見せ所だった。

我がクラスの題目は映画「ボディーガード」に決定した。


うちの学校の演劇はなぜか俳優と声優に別れる。俳優が演技をし、声優は舞台横からマイクで声を当てる。
配役の希望を募るHR中、ふと黒板を見ると。
彼女の名前があった。「リポーター、俳優」。脇役だが、それなりに出番がある役・・・そんなことはいい。
正直ちょっと以外だった。あんまり人前に出るのが好きなタイプではなかったはずだけど。
声優に立候補していたのが彼女の親しい友達だった、ということを見てもいまひとつ納得できなかったが、立候補してるのは事実だ。
劇の役者たちは放課後も学校に残って練習を続ける。チャンスだと思った。俺はおもむろに右腕を上げた。

黒板には、
フランク(主役):声優 ○○
という文字が書き込まれた。勢いでやった。いまは多少反省している。


6月に入り、また席替え。今回は前のほうに座るクジを引かなかったため、かなり後ろになった。
彼女は同列だが、けっこう前の方。こりゃ話す機会減るかな、とか思ってた。

それでも、毎朝のお互い「おはよう」の挨拶、帰りの「バイバイ」の挨拶は一日たりとも、ほんとに一日も欠かさなかった。
他にも、前日に塾で数学のあった次の日。
昼休みに俺は自分の席で本を読んでた。ふと、人の近寄る気配を感じる。
「あの・・・○○くん」 彼女だった。手に何かノートを持っている。
「ん、どうしたの」
「あのね、昨日塾でやったところなんだけど・・・よくわからなかったから、教えてもらっても・・・いい?」
そう言って、恥ずかしそうにノートを抱いて口元を隠した。この仕草ってマンガとかアニメ限定じゃなかったんだ。
俺は萌え死ぬかと思った。
「・・で、これを代入し直したらここが出せるわけで・・」
教えている最中も、チラっと彼女の方を見るとすぐに目が合う。
そうするとお互い顔を赤くしてノートの方を向き、俺が説明し、彼女が聞く。
また目が合う。本当に俺の説明聞いてるのか。気付いたら肩が触れていた。華奢だなぁ。
「・・・っていうこと、なんだけど・・・わかったかな?」
「あ、はい、えっと、うん、ありがとう」
そう言って軽くお辞儀をした後、小走りで自分の席に戻っていった。揺れるポニテが目に優しい。
心の中で、(これはさすがにフラグじゃないのかな)とか思っている俺がいた。


彼女=Sさん、○○くん=俺=Iくん にする。


文化祭は7月頭。劇の練習が本格的に始まった。
彼女は脇役なのでまだヒマだが、俺は何を間違えたか主演男優を取ってしまった。
おかげで主要メンバーでの台本会議とかで忙しくなってきた。

水曜は俺と彼女の共通の塾の日だった。
彼女は「塾に間に合わないから」と言って準備を抜け、俺も少し粘ったが時間ギリギリだったので帰ることにした。
少し歩くと前方に彼女の姿が。俺は、歩みを速めた。

「やぁ」
「あ、Iくんも帰るの?」
「うん、時間危ないしね。せっかくだし、一緒に帰らない?」
「えっ・・・あ、うん!」

その日は暑く、彼女は日傘を差していた。というか、日傘は彼女の基本アイテムらしい。
そして日焼け止めや化粧などはしていない、にもかかわらず透き通るような白い肌を持っていた。
話し方も丁寧だし、もう何もかも俺の理想通りの女の子だった。

うっかり「Sさん、肌きれいだね」なんて言ってしまったので彼女は慌てて
「そんなことないよぉ・・・(///)」と返してくれた。鼻血出るかと思った。


駅に着いたあと、彼女が携帯を取り出した。
「あ、Sさん携帯持ってたんだ」 正直持ってないと思ってた。
「え、うん、まだ買ってからあんまり経ってないけど」
「そっか、俺も高校に入ってからだよ、携帯は。ところで、メアド教えてもらえるかな?」
「うん、いいよ〜」
そう言って彼女はアドレスを表示し、俺に携帯を手渡してくれた。登録を済ませ、彼女に空メールを送っておいた。
「いまこっちから送信したから」
「うん、じゃあ登録しとくね♪」
その後は電車で隣に座って、彼女の降りる駅に着くまでいろいろ話した。
高校のこと、趣味のこと、小学生〜中学生時代のこと。
あっと言う間に時間は過ぎ、彼女は電車から降りていった。
(女の子からメアド聞けた・・・)
俺はよくわからない感動に浸っていた。


今となっては考えられないことだけど、俺はせっかくメアドを貰ったのにメール出してなかった。
だってその時は女の子とメール遊びするなんてスキル、俺にはなかったからね。
一応世間の流れに乗ってメアドは聞いたけど、その後を何も考えてなかった。
でも、その日から2日後。夜の9時半過ぎ。今日も劇の練習で疲れてた。
ブーンブーン。携帯が鳴る。誰だ。
「Sさん」の文字。
ってええええええええええええええええええ

「今日はお疲れ様でした!(*⌒▽^)明日も劇の練習するのかな?」
・・・むこうからメールくれた。やばい、超うれしい。
即刻返信し、その日はしばらくメールで話してからおやすみを言った。
ついに一日の最後の挨拶が「ばいばい」から「おやすみ」に変わった。
なんだか知らないけど、これはすごいことじゃないのかな、と思った。

その日以降、学校でも一日一回は話し、メールも頻繁にやりとりするようになった。
休みの日も話せるんだから、メールっていいよな。昔の人は恋愛するのに携帯なんてなかった、って言うけど
あればあったで面白いと思う。もちろん、お互い携帯ナシでの恋愛も楽しかったけどね。それは中学時代の話だ。

だんだん俺が忙しくなってきて、塾にもいけない日ができてきた。
そんな時でも彼女は、俺が何も言わないのに
「今日も塾、来れないよね?先生に伝えておくね☆」ってメールを入れてくれた。
劇の練習で忙しい俺を支えてくれる、素敵なパートナーだった。もう、俺は彼女に夢中になっていた。

一緒に劇やクラスの出し物の準備もした。ダンボールで看板とかを作ったり。
祭は準備しているときが一番楽しいっていうけど、ほんとにこんな日々が永遠に続いてくれたらいいなんて思ってた。

文化祭直前になると、学校の近くの公園で練習したりした。
動きから声のタイミングまで全て練りこんで、来るべき文化祭に向けてクラスが一丸となっていった。
そんな中で主役に立候補した自分を、今更ながら「よくやるよ」と思っていた。まぁ、演劇部だからいいけど。

直前練習には彼女も来てくれた。一旦予備校の授業に出てから練習に戻ってきてくれた。・・・いい子だ。
練習場所を教えるのにもメールでやりとりして、辿りついたら「教えてくれてありがとう☆」ってお礼を言ってくれる。
わざわざ言う必要もないのに。・・・俺は、彼女のどこを見ても嫌いになる要素を感じられなかった。

そして文化祭当日になった


うちの文化祭は3日間あって、前2日間がひたすらクラス演劇の校内公演。
最終日が一般公開で、上位3クラスのアンコール公演+各クラスの出し物が行われる。
役割分担的には、1年生:ゲーム系 2年:昼食系(調理) 3年:軽食系 って感じ。
内装とかの準備のときも、彼女(Sさん)と相当ベッタリしてやってたのを覚えてる。
まぁ、その話はいい。

うちのクラスの劇は2日目なので、1日目のプログラムが終わるや否やいつもの公園で最終練習を。
で、2日目の朝にも直前確認練習。正直、この追い込みがないと厳しかった。
それぐらいギリギリなんだよな。最後の最後まで台本とかいじってたし。

で、運命の2日目。
みんなが既に衣装に着替えている。俺は声優だから何もする必要はないが、主役の俳優のヤツは
スーツ姿で死ぬほど暑そうだった。練習のときも汗だくだったもんなぁ。
そして、俺は彼女の姿を探した。

・・・一瞬で見つかった。
清楚な白い服、適度に添えられたフリルが目に優しい。黒いロングスカートとのコントラストが見栄え良く、
少し緊張して上気している頬との組み合わせは俺がこの人生で見てきたどの「美」をも上回っていた。
かわいい、そして綺麗だ。
俺はたまらず彼女の近くに行き、毎朝そうしているように話しかけた。

「おはよ」
「あ、Iくんおはよう〜」
「いよいよ、だね」
「うん、緊張するよね・・・」
「それに今日は暑いしね、衣装は大丈夫か?」
俺は服をじっと見て、その後また彼女の目に視線を戻す。
「う、うん・・・」
(心配しなくても、めっちゃ綺麗だぞ)
「すごく綺麗だよ」
あ。俺、いま何言ったんだ。

「え、そんな・・・」
うぁ。やばい、気持ち悪いと思われたかも。
一瞬ビクっとして目を閉じた俺。ナサケナス
そして彼女の反応を確かめようと、おそるおそる目を開けた。

「・・・・アリガトウ(///)」
へ?
俺の予想を裏切り、彼女はいつもの恥ずかしそうに照れたような微笑みを浮かべていた。
「えっと、じゃあ頑張ろうね!アンコールとれたらいいねっ。」
そう言い残し、彼女は教室から出ていった。

なんだ、よくわからないけど今のはアリだったのか。こんなセリフ言ったの人生初だからな。
うん、気分は悪くない。それじゃあいっちょ、カッコいいところでも見せてあげますか。
俺はいまから、主役になる。クラスでたった一人の主役に。いや、主演女優もいるけどね。
むしろそいつは演劇部部長で学年1の演劇派で俺の親友だ。
主人公はクライマックスでヒロインに愛の言葉を囁く。
だけどその時に俺の脳裏に浮かんでいるのは他でもない、毎日見ているキミの笑顔、だ。
なんて似合わないキザな(?)言葉を胸に浮かべ、俺は台本を眺めながら舞台に向かった。


ライトが、点いた。


3日目。
俺たちのクラスは時間になると一旦店を休業し、アンコール公演の準備に移った。
今日は始まる直前まで彼女と一緒に話してた。
「あれ、Iくん今日はメガネじゃないんだね〜?」
「うん、接客業だしね(笑)」
「べつにメガネして接客してもいいと思うんだけど・・・(笑)」
ちなみに俺は普段メガネだが、メガネとってもう少し引き締まればそれなりにカコイイと言われる。
文化祭直前の連日連夜の練習でそれなりに体重は落ちてたから、メガネ外せばなんとかなると思ってやった。
後に文化祭の写真を見たとき、ちょっぴり後悔したことは言うまでもない。

親や校外の友人も見に来ていたアンコールはつつがなく終了し、店番に戻った。
すぐに俺の店番タイムは終わり、自由時間になった。
本当は、Sさんを誘って文化祭を一緒に回りたかったんだ。

・・・でも、どこを見渡しても見つからない。どこ行ったんだ。

俺はストーカーまがいの行動になると知りつつ、校内を探しまわった。
どこだ。
どこにいるんだ。

・・・大してドラマチックな展開でもなく、彼女はすぐに見つかった。
友達が入っている部活の出している店に顔を出していたみたいだ。
その後そこで時間を潰したあと、彼女は自分の店番時間のために教室に戻っていった。

・・・結局、何もできなかった。
なんだか、テンションが下がってきた。主役っていう大仕事をやりきったのに。
こういうチャンスを活かせない自分はまだまだ経験不足なんだな、と思った。

教室の中を覗くと、彼女が店番をしている。
隣に立っている男子と楽しそうに談笑しつつ、客に食べ物を渡していく。
ただそれだけなのに、それを見ている自分が悲しくなってきた。
唇の右端に塩味の水が流れてきた。どんな泣き虫だ。

そんな微妙なテンションのまま、文化祭は終わりを迎えた。
そして、最後に校内放送が流れる。

演劇の主演男優・女優賞。助演も然り。
そしてクラス創作(クラスの店のこと)の最優秀賞発表。
みんなが沈黙した。

主演女優。
古臭いスピーカーから流れてきた音声は、俺の親友の名前を呼んでいた。
クラス内の空気が破裂するような歓声と拍手。
俺も超テンション上がった。やっぱり凄いな、と素直に感心したよ。

でも。
主演男優賞で俺の名前が呼ばれることはなかった。
うん、わかってたんだ。もっとカコイイ役のクラスあったしね。
基本的にうちの劇は主演女優メインだったんで、主演男優はサポートだったんだ。
ちなみに優勝クラスの演目は「パイレーツ・オブ・カリビアン」。
そりゃ勝てんわ。というわけでこの点に関しては大してショックではない。

帰り際、彼女に「お疲れさま、バイバイ」とだけ言って帰った。


ああ、なんか書き忘れてたと思ったら。

クラス創作は準備も頑張った甲斐あってうちのクラスが最優秀賞を見事ゲット。
責任者の女子2人は泣いてた。うん、いい涙だ。俺のめそめそとは大違い。


そして、クラス内での最後の挨拶。
主演男優・女優の俳優・声優のみ、皆の前でコメントしろと言われた。
女優2人が終わり、俺にマイクが回ってきた。

「はい、主演声優のIです。んと、普段大してパっとしない俺がこんな役をやらせてもらい、嬉しい限りです。
こんなかっこいいヤツ(俳優役の男のこと)と組ませてもらったし、いい思い出になった。
なんか、あっと言う間でしたよね。最初はあんまりクラスもまとまってなかったけど、最後は皆遅くまで残って練習に付き合ってくれたし。
主演男優賞はもらえなかったけど、ヒロインのサポートに徹したということで、そこはひとつ。
役者さんだけじゃなくて、裏で手伝ってくれた人たちも、ありがとう。演劇ってのは役者だけでは絶対にできない、ってのを再認識しました。
普段はのほほんとしてるけど、やる時はやるクラスですよ、ほんとに。じゃ、みんな本当にありがとう!」

まぁ平凡なんですけどね。
本当は、こんなセリフも入れたかった。
「・・・あと、個人的にすごく感謝している人がいます。その子は毎日俺を応援してくれて、いろんなサポートもしてくれました。
俺が最後まで頑張りきれたのは、キミのおかげだよ。名前は出さないけど、また今度改めてお礼します。本当にありがとう」
・・・まぁ、クオリティヒクスな俺がそんなセリフ言えるはずもなくorz


文化祭後の振り替え連休はクラスの何人かで打ち上げをしたらしい。
俺は当日の夜の打ち上げで充分だったから行かなかったけど。彼女も同じらしい。
今になって考えれば遊びにでも誘えよって感じなんだが、なんか疲れてたのかな、普通に休みたかった。
それに、彼女はやっぱ普通の女子と違って気軽に遊びに誘えない気がした。中身が完全にお嬢様育ちだから。
この話を通じて、↑の考えは一貫してるものと思ってくれ。要は慎重になりすぎたってことだな。

そしてまた学校が始まった日の帰り、俺は彼女にメールした。(以下メール内容、かなり省略気味)
「もう疲れはとれた?」
「うん、でもまだ少し・・・」
「そっか、俺もだよ。ところで劇のとき、何か化粧でもしてた?」
「え?何もしてないよ?」
「あれ、そうなんだ。なんかいつも以上に綺麗に見えたからさ。舞台映えするタイプなのかな」
正直このメール送ったときはドキドキものだった。

「べつにきれいじゃないってば〜!服がきれいなだけだよ☆」
まぁ、予想通り謙遜されて終わりですけどね。でも、悪い気はしてなかったと思う。

また明くる日。たまたま彼女がいつものポニテではなく、三つ編みにして来てた。
三つ編みて。今日び小学生でも見かけないよ。だが似合いすぎ。清純系最高。
また夜中にメール。
「今日はずっと三つ編みだったね。三つ編みもかわいいなぁ。たまに髪型替えるんだね」
「三つ編みはたまにするんだ〜。明日も三つ編みで行きます(#^▽^) Iくんは最近、ずっとメガネなしだよね〜?」
「気分転換かな?いつものポニテも好きなんだけど。やっぱロングだといろいろ変えられていいなぁ。最近アップにしてたこともあったよね。
以前使い捨てコンタクト大量に買ったから、使わないと・・・って思って。やっぱり眼鏡ないと変かな?(^^;)」

「ポニーテールとアップって何がちがうの?私はどの髪型が一番似合うと思う? Iくんは、眼鏡ない方が似合ってるかも。
さわやかな感じでいいと思うよ☆(*⌒▽^))」

「なんか頭の上のほうでまとめてなかったけ。アップって。 俺はやっぱりいつものポニーテールが一番好き。そういや前髪下ろしてるのは見たことないな。
さわやかって言われたの初めてだよ。ありがと。しばらくコンタクト続けます」

「そういえば、後ろでおだんごにしてた気がする!前髪は幼稚園以来下ろしたことないよ。涼しくなったら下ろしてみたいな♪
でも私に前髪は似合わないとおもうなぁ・・・」

なんて他愛もない、しかし萌え狂えるような愛しい会話を続けていた。
「おだんご」て。高3の女の子の口から聞くとは思わなかった。わざと俺を萌やし尽くす気か。

で、ちょっと勇気出してこんな事を言ってみた。
「〜日の予備校の帰り、一緒に帰らない?」

返事が帰ってくるのが永遠にも感じた。


携帯が鳴った。

文面を見た瞬間、俺の顔は今世紀最大級に緩みきった。文化祭のときの鬱屈した気分は脳内からshift&deleteされた。

そして、初めて一緒に帰る日のこと。
電車に座るスペースがなかったので、俺たち2人はドアにもたれかかるようにして立っていた。
まぁ、彼女は姿勢がいいのでドアにもたれることなくきちっと立っていたが。こういう細かい所も素敵だ。

しかし、お互い緊張しているせいでなかなか自然な会話ができない。
加えて俺はまだ疲れが抜け切らず、目をこすったりあくびをこらえたりする始末。何やってんだ俺。
「Iくん、ねむいの?」
「っああ、ゴメン、まだちょっと疲れがね。せっかく初めて一緒に帰るのに、なんかゴメンな」
「ううん、いいよ。ゆっくり休んで、早く元気になってね」

俺は「愛してるよハニイイイイイイイイイイイイイイ」とでも叫んで抱きしめたい気持ちで胸がいっぱいになった。

そして夏休みを迎えた。
3年生ということで、夏休みに学校で補講があった。その教科(世界史)は俺も彼女も履修していたので、塾以外でも会える機会が増える。
ラッキーだなぁとか思いつつ、補講初日の午前に学校へ向かって歩いていった。

すると。
前方に彼女の姿が!わぉ、普通にラッキーじゃないか。
というわけで初日から一緒に登校できてかなり満悦の自分。
もちろん、2日目以降も同じように一緒に登校しようと思ってた。幸先のいい夏休みになりそうだな、そんな風に思ってた。

だけど、転機はいきなり2日目に訪れた。
昨日同様、駅から学校に行く途中に俺は彼女を見かけた。
けど、俺と彼女の歩く間にもう一人、男が歩いていたんだ。
そいつは学校の中でもモテキャラ、しかも文化祭では主演男優賞(俳優)を取った奴。
なんと、そいつが。
彼女に話しかけた。
そして、2人は学校まで歩いていった。

・・・同じ事が、次の日も続いた。俺は悔しくて仕方なくなり、学校に着いた後に彼女に尋ねた。
「△△(男の名)とは知り合い・・・ってか、同じ塾に行ってたりする?」
それぐらい接点があるなら納得できなくもないかなと。
「え・・違うよ?どうして?」

・・・違う、のか。

「いや、なんか2日連続で一緒に来てたから」
「うん、それは△△くんが話しかけてきて・・・」
「ちょっと、嫉妬してしまうな」
「・・・えっ?」

俺はそれだけ言って、席に着いた。
補講が終わったあとは予備校だったが、全く授業に集中できなかった。
体が、熱い。頭が、ぐちゃぐちゃになる。
彼女の名前しか考えられない。彼女の顔しか浮かばない。
気付いたときには、ノートに彼女の名前が何重にも書かれていた。もう、発狂するかと思った。

その夜、俺はとんでもないことをやらかした。


その夜。予備校から帰った俺を駅の広場で待っていたのは夏祭りだった。
とはいっても、主に食べ物関係の屋台がいくつか並ぶだけの小規模なものだけど。
ああ、もうこんな時期か。せっかくだから、何か食べていこう。

ひとしきりお祭りメニューを頬張った後、帰宅するためバスに乗り込む。
午前中に襲った胸の苦しさを払拭すべく、俺は彼女にメールを送った。
内容は「駅の広場でお祭りやってたよ」って感じのシンプルなもの。
すぐに彼女から返事も来て、「わぁ、いいなあ〜。私も行きたい」って話をしてくれた。
いつもの俺ならこんな温いやりとりで充分満足していただろう。

でも、今日の俺は、違った。

焦り。
なんとかして彼女の気持ちを確かめたいと。
本当にこの2日間のことは単なる偶然で、彼女は俺に好意を持ってくれていると。
信じたかった。安心したかった。
だから、俺はいつもと少しだけ違うメールを。何気なく。そんな感じを装って。


「Sさんの地域でもお祭りとかあるよね?もし誘ったら、一緒に来てくれたりするのかな。」


うん、これなら大丈夫だ。あくまでも、意思確認。実際に誘ってるわけでもないし。
自分の心に逃げ道を作ってる。俺、こんなに怯える必要ないじゃん。
彼女は確かに俺に好意があるはず。問題ない。送信しよう。携帯が震えてる。なんでだ。
・・・違う。俺の手が、震えてるんだ。

もし、断られたら。もし・・・・。

携帯が震えた。
今度は俺の手じゃない。彼女からの返信を知らせようと、携帯が揺れる。


「うん、○○日に△△小学校であるよ〜。毎年行ってるんだ〜☆」

え。

彼女の答えは、書かれていなかった。

一瞬、血の気が引いた。こんな和やかな文面のメールが、俺を恐怖の淵へと追い詰める。
どう解釈すればいいんだ。気付かなかったのか。そんなわけない。無視したのか。なんで。
イヤなのか。恥ずかしいのか。嬉しいのか。そんなわけない。いや、可能性は捨て切れない。

俺は彼女のメールにさし触りのない返事を返しつつ、脳内コンピュータがフリーズしかねない勢いで
思考をフル回転させていた。単に混乱してたとも言うが。

彼女が金魚すくいがどうのこうのってメールを返してきて、雰囲気的にはそろそろ今日のメールやり取りは
打ち止め?って雰囲気になってた。まずい。

このメールを送ろうかどうか1分悩んだ。そして・・・送った。
きっとこの一通から、俺たちの関係は音を立てて変わり始めたんだ。


「金魚すくいかぁ・・・久々にやってみたくなったなぁ。




・・・この際だからもうはっきり聞くけど、息抜きにお祭りに付き合ってくれないかな?花火大会でも
いいけど。ダメかな?」

2回目の、問いかけ。彼女が「気付かなかった」という選択肢を拒否するための。


30分、間が空いた。俺たちのメールのやり取りではそこまで珍しい間隔でもなかったけど。
でも、今日のメールはさっきまでずっと数分間隔だった。だったら。この間には、意味がある。


俺の手の中で携帯が鳴る。たかが着信の振動でこんなに心臓を跳ね上がらせたのは初めてだ。

彼女の、返事は。


「大人数でならいいかもしれないけど、二人だけで遊びに出かけるのは親が許してくれないの。
みんなで行けるといいね☆」

・・・・。
わっからねぇえええええええええええええええええ
「行きたいけど行けない」のか、「行きたくない」のか、どっちだ。いや、なんとなくわかってた。
でも、確かめるまで納得できなかった。もう、止まれない。

「そっか、なら仕方ないな。大人数って何人ぐらいだろう・・・4〜5人くらいかな。
で、そもそも聞いておきたいんだけど。Sさん、君自身は俺と一緒に遊びに出かけるのは嫌じゃない?
これがアウトだったら意味ないから、正直に教えてくれ。突然こんな話になって申し訳ない」


「6人以上かなぁ。私はI君とは、これまでも今までみたいに友達として仲良くしたいと思ってるよ。
それでもいいよね・・・?じゃあ、もう遅いからおやすみ〜。」


「これはもうだめかもわからんね」って言った。素で。独り言。・・・さて、どうするか。


俺は翌日、学校の友人と予備校で会って相談した。
そいつは高校生のくせに酒・タバコ常用だけど普段着は常に黒スーツ(夏も)
得意技はナイフ投擲で将来の夢は神父、という謎人間。だが信頼できる奴だ。

「正直昨日のお前は焦りすぎてたんじゃないか。確かに焦りたくもなるだろうが」
だろうね。
「けど、この状態のままで何もしなかったら相当良くない展開になるぞ。やってしまったものは仕方ない」
うん。
「しかし、あのSさんがお前にこんな反応するとはなぁ、正直かなり予想外だ」
ちなみにコイツには5月ぐらいからずっと話を聞いてもらってる。
「・・・どうすんだ。告白、するのか」
・・・する、と思う。このままうやむやになるのは嫌だ。伝えるなら最後まで伝えたい。
「そうか、なら思うようにしたらいい。何を言うべきか、よく考えてやれよ」
わかった。ありがと。

もう迷わない。


朝、メール。
「おはよう。一夜明けて、少し落ち着いた。
友達として、か・・・。
聞いてほしい話があるから、今日の授業開始30分ほど前に塾の前で待ってます」

すぐ返事が来た。やっぱり彼女も予想してたのかな、こんな展開。
どうやって伝えようか、どんな顔で話そうか・・・。色々、考えていた。


彼女の返事。
「塾は○○さん(彼女の友達)と一緒に車で来てるから、始まる前は無理だとおもうよ・・・。
何の話?電話じゃだめ?」

エエエエエエエエエェェェェェェェェェェェ

「いや、直接話したいんだけど・・・。一旦塾に着いてから、一人で出て来れない?」

「今家にかけてくれたら1コールで私が出るから、大丈夫だよ!電話して〜」
そんなこんなしてるうちに家を出ないと間に合わない時間に。

「ごめん、今から電話してたら間に合わない・・・。」
そう書いてメール終了。塾で顔を合わせたときの気まずさといったらもう。


そして何事もなく帰宅。
(やっぱり、告白できずに終わるのか・・・?)
(これで、終わっていいのか・・・?)
ダメだ。
彼女は俺を支えてくれた。学校にいくことを楽しいと思わせてくれた。
こんな地味でロクにもてない俺に、毎日眩しい笑顔をくれた。俺だけに。



この子だけは、絶対に、失っちゃ、いけないんだ。


俺は携帯電話を手に取った。高校に入るまでは持ってなかった・・・ってか、いらないと思ってたのに。
携帯でつながる恋愛なんて浅はかだと思ってた。今はそんなこと言える状況じゃない。
急いで、メールを打った。


「・・・やっぱり、電話でもいいから、話したい。今からかけていい?」

「いま家族で旅行に来てます!私の携帯は電池が切れそうだから、お母さんの携帯にかけて〜。
番号は***********です。」

・・・相変わらずどこかかみ合わないなぁ。
まぁいい。とりあえず長くなりそうだし、家の子機からかけよう・・・。

プルルルルルル・・・・・

「はい、もしもし・・・Iくん?」
「ああ、俺。聞こえる?」
「え?」
「いや、聞こえる?」
てか電波悪杉
むこうも聞こえてなかったっぽい。

「ごめん、ちょっと電波悪いから、場所移るね〜。少しだけ待ってて!」

数分後、再ダイヤル。

「は〜い。これならどう?聞こえてる?ロビーに降りたんだけど・・・」
「あ、なんとかなるね。じゃ、これで。」
「うん」
「・・・」
「・・・?えっと、Iくん、何の話・・・なの?」

本当にわかってないのだろうか。だとしたら鈍感もいいとこだが。
「・・・んと、まず謝らないといけないことがあって」
「うん」
「昨日から今日にかけて、なんか突然へんなメール送ってごめん。戸惑った・・・よな」
「・・・ちょっとね」
「なんか最近無意味に焦ってしまってな。・・・で、聞きたい事がある」
「・・・なぁに?」
「昨日の最後のメール、『これからも今まで通り友達として・・・』って書いてあっただろ。
・・・あれは、どういう意味で受け取ったらいいのかな。」


「・・・Iくんは、わたしのこと、どう思ってるの?」

あ・・・ついに、このときがきたんだ。

俺は、一度深く深呼吸をした。

「・・・俺は、君が好きだ。大好きだ。本当に、好きだ。一緒にいてくれたら嬉しいし、他の男子と
一緒だったらそれだけで胸が苦しくなる。この前の補講の日の朝も、嫉妬してしまう・・って言ったよね。
あれも冗談じゃなくて、思わず本音が出たんだ」

彼女は「うん、うん」と相槌を打って聞いてくれる。最初の「本当に、好きだ」のところらへんで、
なんだか嬉しそうに笑う声が聞こえた。

「ごめんな、突然。
なんでこんなに好きになったかわかんない。気付いたら好きになってたし、どこが好きかって聞かれても
・・・気付いたときには、もう君の全部が好きになってたんだ」
「うん、ありがとう・・・」と小声で呟く彼女。

「これからも君と一緒に助け合って、励ましあっていけるような関係になりたい。
俺は、誰よりも君のことを大切にするから。

だから、俺と付き合ってくれないか」

「・・・えへへ」
「・・・ん?」
「ありがとう。Iくんが私のこと、そこまで大事に思ってくれてるなんて思わなかったよ。」

お・・・もしかして・・・?

「わたし、これからもIくんと今まで通り、お友達でいたいな」

・・・だよな。

「そっか、メールで言ってた通り、か・・・」
「うん、ごめんなさい・・・」
「・・・他に好きなやつが、いるの?」

「ううん、そういうわけじゃ、ないんだけど・・・
まだ、そういうの私には早いかな、って。でもIくんは本当に大事なお友達だよ?
これからも、お友達でいてくれる?」

「・・・仕方ないな」

「ごめんね・・・」

「・・・でも、俺は君のことを諦めないから。1%でもチャンスが残ってるなら、俺は諦めない」
「もう一回言わせてくれ・・・ほんとに、大好きだ。」
「ありがとう・・・」
「じゃあ、家族旅行の邪魔して悪かったね。親御さんも心配してるだろうし、このへんで」
「うん、また塾で会おうね。」
「おやすみ。大好き。」
「えへ・・・おやすみ。またね。」

ツーツーツー


素早くこの日のことを日記に残し、俺はベッドの上に倒れこむ。
「あー。あかんかった」

(だけどまぁ、つい1年ちょっと前までロクに男子と話してもいなかった子だしな)
なんとかなる、これからなんとかしてみせる。
いいじゃん、こういうお嬢さんを好きで選んだのは俺じゃないか。
しかも、上辺だけじゃなくて中身まできっちりしてる本物だ。こんな子、一生に一度会えるかどうか。
ほんとに育ててくれた親御さんには感謝するしかないよ。

「さて、明日からまた新しい挑戦が始まる・・・ってか」
諦めが悪いのが俺の欠点でもあり、長所でもあるんだ。
今まで振られてすぐに撃沈してた恋愛。でも、今回ぐらいマジになってみようや、俺。
うん、OK。俺が彼女の一番の男友達であることに違いはないんだ。リードしてるんだ。

・・・なんて自分に言い聞かせつつ、俺は結構前向きに明日を見据えていた。

第一部 完
まだまだ続くけどね。
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